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AI時代でも知っておくべき「論文執筆の基本」(2):構造をそろえる Parallelism というリズム

生成AIが文章を生成してくれる時代になり、「書く」という行為の価値は、以前とはかなり違って感じられるようになりました。そうであっても、あなたが論文を書くときに知っておくべき基本は、今なお変わらず存在しています。今回の記事では、科学技術論文のテクニカルライティングにおいて特に意識すべき基礎概念である parallelism(パラレリズム、並列性) について解説します。

 ここであらかじめ強調しておきたいのは、論文の文章は、文学や作文とは目的が異なるという点です。学校教育や文章表現の指導では、しばしば「同じ表現を繰り返してはいけない」「言い換えを工夫しなさい」と教えられます。これは、物語や随筆においては、表現の単調さを避け、読み味や情緒を豊かにすることが重要だからです。

 一方で、科学技術論文では事情がまったく異なります。論文の目的は、感情を動かすことでも、表現の巧みさを示すことでもありません。同じレベルの情報は、同じ形で示すことで、読者に論理構造を正確に伝えることが最優先されます。そのため、論文ではむしろ、意図的に同じ表現や構文を繰り返すことが推奨されます。

 Parallelism は、そのための基本的な作法です。文学的な文章の感覚のまま論文を書くと、「単調に見えるのではないか」「同じ言い回しを避けるべきではないか」と不安になるかもしれません。しかし、論文における反復は冗長さではなく、親切さです。論文を書くときには、文学や作文とは異なる目的と作法があることを意識し、読み手にとって最も理解しやすい構造を優先する必要があります。これは、日本語・英語を問わず、論文を書く際に常に意識すべきポイントです。

文学と科学技術論文のイメージ

0. Parallelism とは何か

 parallelism とは、同じ役割をもつ要素を、同じ形・同じリズムで書くことを意味します。

 人間が文章を読むとき、無意識のうちに次のように判断しています。

「形がそろっている」ので当然「同じレベルの情報」と判断する。 「形が違う」ので「別の内容? 話題が変わった?」と疑う。

 したがって、parallelism が崩れている文章は、読者に余計な判断を強いる文章なのです。

1. なぜ Parallelism が重要なのか

 論文が読みにくくなる原因は「内容が難しいから」だけではありません。多くの場合、

  • どこが並列で
  • どこが対比で
  • どこから話が進んだのか

が、文の形から直感的に分からないことにあります。

 Parallelism が保たれていれば、読者は内容の理解に集中できます。逆に parallelism が崩れると、読者は

「これは同じ話の続きなのか?」 「今、別の論点に移ったのか?」

と悩み、立ち止まることになります。

 テクニカルライティングの目的は、読者に考えさせないことではなく、考えるべき点を限定することです。そのための基礎が parallelism です。

3. 悪い例:意味は通じるが、読みにくい文

 まず、よく見かける例を挙げます。

■ 列記・列挙の悪い例

This method is simple, robust, and it can be applied to nonstationary data.

 文としては正しいようにも感じます。しかし構造を見ると、

  • simple(形容詞)
  • robust(形容詞)
  • it can be applied ...(文)

と、並列のはずの要素が異なる形で書かれています。

 読者は無意識に「構造」を読み取ろうとするため、形の違うものが登場した時点で違和感や、リズムの崩れを感じます。

■ 改善例(parallelism を保つ)

This method is simple, robust, and applicable to nonstationary data.

 すべてを 形容詞(あるいは形容詞句) にそろえることで、「これは特徴の列挙だ」とわかりやすい文になります。

4. 箇条書きで崩れやすい Parallelism

 Parallelism は、箇条書きで特に崩れやすいポイントです。そのため、論文執筆だけでなく、発表スライドを作成する際にも注意すべき点です。

■ 箇条書きの悪い例

  • data acquisition
  • preprocessing of signals
  • we analyze the data

 意味は理解できますが、

  • 名詞
  • 名詞句

が混在しています。

■ 改善例

 名詞で統一するのであれば、

  • data acquisition
  • signal preprocessing
  • data analysis

 動詞で統一するのであれば、

  • acquire data
  • preprocess signals
  • analyze data

 どちらが正しいかではなく、「そろっているか」が重要です。

5. Parallelism は「思考の整合性」を映す

 ここで重要な点があります。parallelism の原則が守れていない部分は、思考がまだ整理されていない可能性が高いということです。並列に書こうとして、どうしても形がそろわない一部だけ説明的になる場合、それはしばしば、

  • 実は同列の概念ではない
  • 条件と結果が混ざっている
  • 抽象度が異なる話を並べている

ことを反映しています。

 文章を直す過程で論理が洗練されていくのは、このためです。良い文章校正は、良い思考整理でもあるのです。

6. 方法・結果・議論での Parallelism

 parallelism は、方法・結果・議論の各セクションでも意識する必要があります。

■ 例(方法の列挙)

  • To quantify long-term correlations, we employed DFA.
  • To assess cross-correlations, we applied DMCA.
  • To evaluate robustness, we performed sensitivity analyses.

 すべて To + 動詞 で始めることで「ここは解析手法を並べている部分だ」と読者は即座に理解できます。

7. チェックポイント

 原稿を書き終えたあとに推敲する際は、次の点を意識して確認してみてください。

並列に並べた要素は、本当に同じ種類のものか?

文法的な形は、完全にそろっているか?

もしそろえるのが難しいのであれば、要素を分けたほうがよいのではないか?

 この確認を習慣にするだけで、論文の可読性は大きく向上します。

8. おわりに:論文にはリズムがある

 Parallelism は、文章に論理的なリズムを与えます。それは文学的なリズムではなく、理解のためのリズムです。そして、Parallelism は、読み手への配慮であり、書き手の思考の鏡です。このリズムを意識することが、伝わる科学技術論文への第一歩になります。

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