Rではベクトルに要素を追加する際に、「動的拡張」と「事前領域確保」の2つの方法があります。今回の、教訓は
処理を高速化したければ、事前に領域を確保しろ!
ということです。「動的拡張」と「事前領域確保」について説明し、Rスクリプトで数値実験を行ってパフォーマンスの違いを見てみます。
1. 動的拡張
動的拡張は、ベクトルを空の状態から始め、要素を1つずつ追加していく方法です。しかし、Rではベクトルは固定長のデータ構造であり、サイズ変更が必要になるたびに新しいベクトルが作られ、既存の要素がコピーされます。そのため、サイズが大きくなるにつれて計算コストが増加し、処理速度が低下します。
動作イメージ
1つの本棚に本を1冊ずつ追加するたびに、新しい本棚を作り直して本を移動する。
2. 事前領域確保
事前に必要なサイズのベクトルを作成し、その中に値を格納する方法です。これにより、新しいベクトルの作成とコピーのオーバーヘッドを回避できます。
動作イメージ
最初から適切なサイズの本棚を用意し、そこに本を順番に並べる。
数値実験
Rスクリプトを用いて、動的拡張と事前領域確保の速度を比較します。
- 動的拡張:
c()
関数を使って、1つずつ要素を追加。 - 事前領域確保:
numeric()
で必要な長さのベクトルを作成し、要素を代入。
# ベクトルの長さ n <- 100000 # 動的拡張の計測 start_time_dynamic <- Sys.time() vec_dynamic <- c() for (i in 1:n) { vec_dynamic <- c(vec_dynamic, i) # 要素を1つずつ追加 } end_time_dynamic <- Sys.time() time_dynamic <- as.numeric(difftime(end_time_dynamic, start_time_dynamic, units = "secs")) print(paste("動的拡張の時間:", time_dynamic, "秒")) # 事前領域確保の計測 start_time_preallocated <- Sys.time() vec_preallocated <- numeric(n) # 事前に領域を確保 for (i in 1:n) { vec_preallocated[i] <- i # 既存の領域に直接代入 } end_time_preallocated <- Sys.time() time_preallocated <- as.numeric(difftime(end_time_preallocated, start_time_preallocated, units = "secs")) print(paste("事前領域確保の時間:", time_preallocated, "秒")) # 結果比較(修正) speed_ratio <- time_dynamic / time_preallocated print(paste("速度比(動的拡張 / 事前領域確保):", speed_ratio))
私のPC環境では、
[1] "動的拡張の時間: 8.14010691642761 秒" [1] "事前領域確保の時間: 0.186532974243164 秒" [1] "速度比(動的拡張 / 事前領域確保): 43.638970264936
40倍以上、実行時間が違います!
1秒と40秒、1分と40分、1時間と40時間、どれも大きな差です。人生の時間を無駄にしないために、やるべきことは事前領域確保です。
実験結果の予想と考察
1. 動的拡張の問題点
c(vec, new_element)
を繰り返すたびに、新しいベクトルが作られ、すべての要素がコピーされるため、計算コストが急増する。- 特に
n
が大きくなると、メモリの再配置が頻発し、劇的に遅くなる。
2. 事前領域確保のメリット
- 初めから十分なサイズのベクトルを確保することで、コピーのコストを削減。
- ループ内で単に値を代入するだけなので、計算効率が高い。
まとめ
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
動的拡張 | コードが直感的で書きやすい | 計算コストが大きく、処理時間が長い |
事前領域確保 | メモリ効率が良く、処理が速い | 初めに必要なサイズを決める必要がある |
Rでは特に大規模データを扱う際、事前領域確保を用いることで劇的にパフォーマンスが向上します。データのサイズが事前にわかっている場合は、numeric()
, integer()
, character()
などを使って適切に領域を確保するのが最善の選択です。