ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析、生体情報解析などをやわらかく語ります

物理

【わかったふりをしない科学】 完璧なカルノーサイクルの罠~なぜ「理想のエンジン」は走らないのか?~

「カルノーサイクル」。理系の大学生なら一度は耳にし、教科書や講義で「最も効率がよい理想のエンジン」と習ったことがあると思います。どの教科書にも必ず登場し、熱力学では基本中の基本です。 でも、私には正直なところ——この「カルノーサイクル」に対す…

【科学の言葉を知る7】エントロピー:「取り返しのつかない変化」と「情報の欠落」

エントロピーという言葉を聞くと、多くの人は「無秩序」「乱雑さ」「情報量の平均」などの教科書的な表現を思い浮かべます。けれども、エントロピーが最初に登場した熱力学の教科書をいくら読んでも、どこか釈然としない感覚が残るのではないでしょうか。 た…

【科学の言葉を知る5】パラダイム:気づかぬうちに縛られている“思考の壁”

私は、20代(1990年代後半)のころ、賢いふりをしたくて「現代思想」という雑誌をときどき買って読んでいました。当時は、ソーカル事件などがあって、権威主義の根底がゆらいでいるのが面白かったです。ソーカル事件というのは、アラン・ソーカル(Alan Soka…

【科学の言葉を知る4】「ドラゴンキング」と「ブラック・スワン」:極端現象の二大メタファー

みなさんは、ディディエ・ソネット(Didier Sornette)の「ドラゴンキング理論」を知っていますか? この理論を知らない方は以下の動画を視聴してみてください。私は、20年ほど前、東京で開催された経済物理学の国際会議で、ソネットに一度お会いしたことが…

【科学の言葉を知る3】システム(system)の魔法としての「創発」

「システム(system)」という語は、現代の科学・技術・社会のあらゆる場所に登場します。 コンピュータシステム 生態系(ecosystem) 神経システム(nervous system) 制御システム(control system) 経済システム 心血管システム 線形システム(linear sy…

【科学の言葉を知る2】スペクトル(spectrum)の広がり

「スペクトル(spectrum)」という語は、物理学、工学、医学など、多くの分野で用いられています。たとえば、 光のスペクトル(optical spectrum) 周波数スペクトル(frequency spectrum)/フーリエスペクトル(Fourier spectrum)/パワースペクトル(pow…

【科学の言葉を知る1】「モーメントは瞬間」では理解できない

「モーメント(moment)」という言葉は、統計学・物理学・工学など、多くの分野で登場します。 しかし日本語では、 力のモーメント(トルク) 慣性モーメント 磁気モーメント 統計のモーメント 運動量(momentum) といった専門用語の中で用いられていても、…

【デジタルフィルタの基礎3】積分はローパス、微分はハイパス:フラクタル時系列解析の基礎として学べ

これまで FIR フィルタの基本的な考え方を概観してきましたが、今回はその中でも特に基礎的でありながら、信号解析のあらゆる分野に通じる重要なテーマを扱います。 それは、 「積分(累積和)」と「微分(差分)」という基本操作が、なぜローパス、ハイパス…

【非ガウス分布の基礎2】モーメント母関数:「もうひとつの像の世界」とその限界

確率変数、あるいは、その確率密度関数の性質を理解するうえで重要な統計量のひとつが、モーメント(moment)です。モーメントとは、確率変数の平均、分散、歪度、尖度といった「分布の形」を記述するための指標であり、分布の情報を、分布の中心から裾へと…

【非ガウス分布の基礎1】特性関数で確率変数の和を考える:確率分布をフーリエ変換すると見える世界

フーリエ変換(Fourier transform)というと、偏微分方程式を解くときや、音声・画像・脳波などの信号解析で使われる数学的道具だというイメージが強いかもしれません。たしかにフーリエ変換は、関数や信号を「周波数成分」に分解し、複雑な問題を整理して計…

【フラクタルの数理】非整数ブラウン運動のフラクタル次元:なぜ、D=2-H

以前の記事で、ボックスカウンティング次元を紹介しました。 ボックスカウンティング次元では、グラフや図形を、一辺の長さが の箱(区間・正方形・立方体・あるいは高次元の超立方体)で覆うことを考えます。他の人の説明では、格子状に箱を並べるように書…

【正規分布の基礎6】最大エントロピー原理と正規分布:無知が導く、唯一の姿

正規分布といえば、中心極限定理が教えるように、「多くの小さなゆらぎの総和」がつくり出す普遍的な形だ──これが広く知られた理解でしょう。しかし、正規分布には、それとはまったく異なる道筋から導かれる、もうひとつの美しい物語があります。 それは、 …

【正規分布の基礎5】レヴィの安定分布:足し算の向かう先は正規分布だけではない

これまでの正規分布にまつわる物語では、ド・モアブル(Abraham de Moivre, 1667–1754)からガウス(Carl Friedrich Gauss, 1777–1855)、ラプラス(Pierre-Simon Laplace, 1749–1827)、リャプノフ(Aleksandr Lyapunov, 1857–1918)へと続く歴史の中で、 …

【フラクタルの数理】ボックスカウンティング次元をイメージしてみる

今回は、フラクタル図形を特徴づける「ボックスカウンティング次元(box-counting dimension)」のお話です。 私たちが「次元」という言葉にもっている素朴なイメージは、0次元は位置だけを示す点、1次元は長さを持つ線、2次元は面積を持つ平面、3次元は体積…

【インパルス応答】t = 0に閉じ込められた物語(その2)

前の記事(以下のリンク)に続き,デルタ関数,あるいは,単位インパルス関数と呼ばれるを使った線形システムのインパルス応答を考えてみます. chaos-kiyono.hatenablog.com 今回は,を,以下で定義する について としたもので定義します. の定義.簡単な…

【インパルス応答】t = 0 に閉じ込められた物語

前の記事(以下のリンク)で,デルタ関数,あるいは,単位インパルス関数がどこに立っているのかにこだわりました.今回は,線形システムのインパルス応答を考えて,私がなぜインパルスが立っている位置(時刻)にこだわるのかを説明します. chaos-kiyono.h…

デルタ関数,単位インパルス関数は,どこに立っている?

ディラック (Dirac)のデルタ関数や,単位インパルス関数(単に,インパルス関数と呼ぶことも)は,分野によって立っている位置が違うので,一つの定義にこだわっていると,計算結果に納得できないことがあります.「デルタ関数と単位インパルス関数は同じモ…

【受動歩行の物理】リムレスホイール

Rでリムレスホイールの動画を作ったので載せておきます.これは,解析解をグラフィックとして描いただけで,数値解は計算していません. 受動歩行を知るためにMcGeerが登場するYoutubeの動画を見てみてください. www.youtube.com リムレスホイールは,McGee…

【受動歩行の物理の基礎】角運動量の保存

受動歩行を単純化したモデルとしてリムレスホイールがあります. 受動歩行のモデルであるリムレスホイール今回は,リムレスホイールの運動を理解するために,ポイントとなる角運動量について解説します. ポイントは,以下の3つです. 角運動量ベクトルの大…