ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析、生体情報解析などをやわらかく語ります

2025-01-01から1年間の記事一覧

【フラクタルの数理】非整数ブラウン運動のフラクタル次元:なぜ、D=2-H

以前の記事で、ボックスカウンティング次元を紹介しました。 ボックスカウンティング次元では、グラフや図形を、一辺の長さが の箱(区間・正方形・立方体・あるいは高次元の超立方体)で覆うことを考えます。他の人の説明では、格子状に箱を並べるように書…

【デジタルフィルタの基礎2】FIRのローパスフィルタの仲間たち:Rで体験しよう

前回の記事では、FIR フィルタの基本について概観しました(以下のリンク)。 【デジタルフィルタの基礎1】まずは、FIRフィルタの世界を一望してみよう - ケィオスの時系列解析メモランダム しかし、フィルタを「使いこなせる」ようになるためには、抽象的…

【線形代数の基礎】ベクトルと行列の基本的な微分公式

行列微分は、多変量最適化、機械学習、信号処理、統計学などの多くの分野で基本となる道具です。今回は、ベクトルや行列に関する代表的な微分公式をまとめ、その考え方を説明してみます。 0. ベクトル・行列表記の基礎 ■ ベクトル ■ 行列 ■ スカラー値関数 ■…

【信号処理の基礎】Savitzky–Golayフィルタを一般形で表す

Savitzky–Golay(SG)フィルタは、時系列データをなめらかにしながら波形の形をできるだけ壊さない、非常に便利な平滑化手法です。生体信号解析、化学計測、音声処理、パワースペクトルの平滑化など、幅広い分野で利用されています。 SG フィルタの特徴は、…

【デジタルフィルタの基礎1】まずは、FIRフィルタの世界を一望してみよう

Finite Impulse Response(有限インパルス応答)、略して FIR フィルタ とは、入力に対する応答(インパルス応答)が有限の長さで確実にゼロになるデジタルフィルタのことを指します。たとえば、鐘を叩いたときに「カーン」と響く音を思い浮かべてください。…

【信号処理の基礎数学4】くし型関数が語る標本化の特性:連続から離散への橋渡し(その2)

前回の記事では、くし型関数(comb function)のフーリエ変換について解説しました。私たちは普段、スマホで写真を撮ったり、音声を録音したりと、「アナログな世界をデジタルとして記録する」 技術を当たり前のように使っています。 もちろん、かつてはアナ…

【信号処理の基礎数学3】くし型関数のフーリエ変換:連続から離散への橋渡し(その1)

時系列データのスペクトル解析を正しく理解するためには、 「サンプリング(標本化)とは何か」 「なぜエイリアシングが起こるのか」 「離散化されたデータのパワースペクトルの形がどう決まるのか」 といった根本的な仕組みを押さえる必要があります。 この…

【心拍変動解析の基礎0】ホルター心電計の誕生から心拍変動解析へ

ホルター心電計(Holter monitor)とは、小型の装置を身体に取り付け、24時間以上にわたり心電図を連続記録する検査機器です。日常生活の中で心臓の電気的活動を追跡できるため、健康診断などで実施される数十秒の心電図検査では捉えにくい、不整脈、虚血性…

【正規分布の基礎6】最大エントロピー原理と正規分布:無知が導く、唯一の姿

正規分布といえば、中心極限定理が教えるように、「多くの小さなゆらぎの総和」がつくり出す普遍的な形だ──これが広く知られた理解でしょう。しかし、正規分布には、それとはまったく異なる道筋から導かれる、もうひとつの美しい物語があります。 それは、 …

【正規分布の基礎5】レヴィの安定分布:足し算の向かう先は正規分布だけではない

これまでの正規分布にまつわる物語では、ド・モアブル(Abraham de Moivre, 1667–1754)からガウス(Carl Friedrich Gauss, 1777–1855)、ラプラス(Pierre-Simon Laplace, 1749–1827)、リャプノフ(Aleksandr Lyapunov, 1857–1918)へと続く歴史の中で、 …

【正規分布の基礎4】中心極限定理の物語:多様な原因は、なぜ一つの姿へ収束するのか

17〜18世紀、確率論という学問はまだ小さな芽にすぎませんでした。賭博の計算から出発した確率の世界に、ド・モアブルは新しい光を当てます。彼は、コイン投げのような単純な試行を何度も繰り返したとき、結果の「回数の分布」が、滑らかな「洋鐘形」の曲線…

【正規分布の基礎3】誤差の中の秩序の探究:ガウスの誤差法則と正規分布

18世紀のヨーロッパは、天文学が大きく前進すると同時に、新たな壁に突き当たった時代でした。17世紀にケプラーが精密な観測から惑星の軌道が楕円であること、面積速度が一定であること、周期と軌道半径の関係が成り立つことを見出し、さらにニュートンが万…

【正規分布の基礎2】二項分布の極限としての正規分布の発見

18世紀初頭、ロンドンは産業革命の萌芽とともに、商業と金融の中心地として急速に発展していました。 賭博や保険、海外交易といった「リスク」をめぐる新たな社会活動が活発化し、人々がコーヒーハウスの木製テーブルを囲んで議論を交わす光景が広がっていま…

【正規分布の基礎1】正規分布はどこから来るのか

統計学や自然科学のあらゆる場面で登場する「正規分布」。平均やばらつきを扱うとき、t検定や分散分析(ANOVA)など、多くの統計手法がこの分布を前提にしています。しかし、そもそもなぜこの形だけが特別扱いされているのでしょうか。世の中には多様な分布…

【フラクタルの数理】ボックスカウンティング次元をイメージしてみる

今回は、フラクタル図形を特徴づける「ボックスカウンティング次元(box-counting dimension)」のお話です。 私たちが「次元」という言葉にもっている素朴なイメージは、0次元は位置だけを示す点、1次元は長さを持つ線、2次元は面積を持つ平面、3次元は体積…

【時系列モデリング】長時間相関過程をMA過程・AR過程として考えてみる

このブログでは過去にも説明しましたが、ここで改めて、「長時間相関過程」(long-range dependent process、あるいは、long-range correlated process)を、時系列モデリングで古典的に用いられてきた移動平均過程(moving average process; MA process)と…

時系列データに対するHiguchi法のフラクタル解析:「どれだけギザギザしているか」で測る

株価の変動、心拍間隔の揺らぎ、脳波の波形など、時系列データをグラフに描くと、多くの場合その形は「ギザギザ」しています (下の図参照)。この「ギザギザ」は、データの生成メカニズムを反映しているかもしれませんので、ギザギザを定量化して、その違いを…

【Rでマルチフラクタル時系列】Multifractal random walkの増分時系列の生成

時系列解析の手法のひとつに、「マルチフラクタル解析」という、どこか響きのかっこいいものがあります。ただしこの解析は、マルチフラクタル性という特殊な性質を持つ時系列にしか適用できません。ですから、私はあまり積極的に使おうとは思わないのです。…

【私のチの冒険】体格指標BMIの成功と挫折、そして再生(5):200年間気づかれなかった子どもの成長法則

19世紀の統計学者アドルフ・ケトレーは、「体重は身長の二乗に比例する」という法則を見いだしました。この考え方は、その後、今日まで続く BMI = 体重÷身長² の根拠として広く信じられてきました。 しかし、以前の記事でも指摘したように、これは必要な条…

【私のチの冒険】体格指標BMIの成功と挫折、そして再生(4):大人と子どもの決定的な違い

成人のBMIには、生物としてのヒトのデザインを映し出す、驚くほど美しい法則が潜んでいます。それは、下の図に描いたように、「身長がどれほど異なっていても、BMI分布の形が常に同じである」という法則でした。数理的に言えば、身長が与えられたときのBMIの…

【私のチの冒険】体格指標BMIの成功と挫折、そして再生(3):子どもの体格指標のパラドクス

成長期の子どもの肥満や痩せの程度を「身長と体重」だけで正しく評価できるのだろうか? 子どもの肥満や痩せの判定は、健康管理においてきわめて重要であり、これまでも当然のように行われてきました。そのため、「そんなのはもう答えの出ている話だろう」と…

【私のチの冒険】体格指標BMIの成功と挫折、そして再生(2):BMIが語る成人のデザイン

子どものころは身長がどんどん伸びていきますが、骨格が成熟した成人では、体重の増減はあっても、骨格的なスケールは一定に保たれます。ここでは、骨格の成長(伸び)が完了した成人におけるBMI(Body Mass Index)の意味について考えてみます。 近年、BMI…

【私のチの冒険】体格指標BMIの成功と挫折、そして再生(1):成長期のこどもにBMIは使えない

プロローグ チの物語を紡ぎ、感動をつなぐ 私は数か月前、学生に勧められて「チ。 ──地球の運動について──」(原作:魚豊)のアニメを観ました。この作品は、キリスト教的世界観が支配的だった時代と地域において、天動説に疑問を抱き、地動説を証明しようと…

【Rで線形混合モデル2】lmer() 関数の使い方

今回は、Rのlme4 パッケージの lmer() 関数の使い方をまとめておきます。以下の記事も参考にしてください。 chaosmemo.com chaosmemo.com 線形混合モデルとは? lmer() 関数の基本形 例 ランダム効果の指定方法 切片のみランダム 傾きのみランダム(切片は共…

【Rで線形混合モデル1】とにかく使ってみる

今回は、線形混合モデル(Linear Mixed Model, LMM)のお話です。学生の皆さんが線形混合モデルを使った分析のイメージをつかむのに役立てばうれしいです。 線形混合モデルは、 「たくさんの人からデータを集めたとき、個人差も考慮しながら、いろいろな要因…

【講義資料7/23】フーリエ変換を体験

理屈は抜きにして,時系列の「周波数成分への分解」を体験するために,以下のRスクリプトを実行してみてください. どんな時系列も、正弦波の重ね合わせで表現できる Copy # 時系列の設定 (自由に決めてね) # c(...)の中にコンマ区切りで書く.長くすると…

複雑なシステムを理解するための分類の考え方とその歴史的背景

生物のような複雑なシステムを理解しようとするとき、私たちは対象をそのまま扱うのではなく、ある種の「単純化」や「整理」を行います。その代表的な方法が「分類」です。たとえば、生物の系統分類、ニューロンのタイプ、臓器の機能ごとの分類、あるいは生…

【7/9講義】 心拍変動を見てみる

Head-up Tilt Test Head-up Tilt Test(HUT)は、仰臥位から頭部を傾斜させた立位姿勢(例:20~60度)に変化させることで、自律神経系の反応を評価する方法です。仰臥位では副交感神経が優位であり、心拍変動(HRV)は比較的大きく変動します。傾斜位に移行…

【R】2次元正規分布を観察

2次元正規分布は、2つの連続変数が同時に正規分布に従う場合の確率分布を表すものです。これは、1変数の正規分布を2次元空間に拡張したものであり、2変数間の相関関係も含めて記述しています。 たとえば、身長と体重、温度と湿度、脳活動の2つの信号など、同…

【R】スマートに検定を使う前に数値実験で考えてみる

今回は、理論的に導かれる検定手法を適用する前に、数値実験(モンテカルロ・シミュレーション)を通して、検定の考え方を考察します。 母比率の推定 母比率(population proportion)とは、母集団の中で、ある条件を満たす要素の割合のことです。 例えば、 …