ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析、生体情報解析などをやわらかく語ります

2025-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【科学の言葉を知る3】システム(system)の魔法としての「創発」

「システム(system)」という語は、現代の科学・技術・社会のあらゆる場所に登場します。 コンピュータシステム 生態系(ecosystem) 神経システム(nervous system) 制御システム(control system) 経済システム 心血管システム 線形システム(linear sy…

【科学の言葉を知る2】スペクトル(spectrum)の広がり

「スペクトル(spectrum)」という語は、物理学、工学、医学など、多くの分野で用いられています。たとえば、 光のスペクトル(optical spectrum) 周波数スペクトル(frequency spectrum)/フーリエスペクトル(Fourier spectrum)/パワースペクトル(pow…

【科学の言葉を知る1】「モーメントは瞬間」では理解できない

「モーメント(moment)」という言葉は、統計学・物理学・工学など、多くの分野で登場します。 しかし日本語では、 力のモーメント(トルク) 慣性モーメント 磁気モーメント 統計のモーメント 運動量(momentum) といった専門用語の中で用いられていても、…

【デジタルフィルタの基礎3】積分はローパス、微分はハイパス—— フラクタル時系列解析の基礎として学べ

これまで FIR フィルタの基本的な考え方を概観してきましたが、今回はその中でも特に基礎的でありながら、信号解析のあらゆる分野に通じる重要なテーマを扱います。 それは、 「積分(累積和)」と「微分(差分)」という基本操作が、なぜローパス、ハイパス…

【非ガウス分布の基礎2】モーメント母関数:「もうひとつの像の世界」とその限界

確率変数、あるいは、その確率密度関数の性質を理解するうえで重要な統計量のひとつが、モーメント(moment)です。モーメントとは、確率変数の平均、分散、歪度、尖度といった「分布の形」を記述するための指標であり、分布の情報を、分布の中心から裾へと…

【非ガウス分布の基礎3】キュムラントって何?:正規分布は分布の世界に中心にいる

確率分布の形状を記述する統計量として、平均・分散・歪度・尖度といった モーメント(moment) に基づく指標が代表的に紹介されます。これらは分布の特徴を把握するうえで基本的かつ重要な量です。しかし、モーメントだけで確率密度関数を一意に定めるため…

【非ガウス分布の基礎1】特性関数で確率変数の和を考える—— 確率分布をフーリエ変換すると見える世界

フーリエ変換(Fourier transform)というと、偏微分方程式を解くときや、音声・画像・脳波などの信号解析で使われる数学的道具だというイメージが強いかもしれません。たしかにフーリエ変換は、関数や信号を「周波数成分」に分解し、複雑な問題を整理して計…

【フラクタルの数理】非整数ブラウン運動のフラクタル次元―なぜ、D=2-H

以前の記事で、ボックスカウンティング次元を紹介しました。 ボックスカウンティング次元では、グラフや図形を、一辺の長さが の箱(区間・正方形・立方体・あるいは高次元の超立方体)で覆うことを考えます。他の人の説明では、格子状に箱を並べるように書…

【デジタルフィルタの基礎2】FIRのローパスフィルタの仲間たち—— Rで体験しよう

前回の記事では、FIR フィルタの基本について概観しました(以下のリンク)。 【デジタルフィルタの基礎1】まずは、FIRフィルタの世界を一望してみよう - ケィオスの時系列解析メモランダム しかし、フィルタを「使いこなせる」ようになるためには、抽象的…

【線形代数の基礎】ベクトルと行列の基本的な微分公式

行列微分は、多変量最適化、機械学習、信号処理、統計学などの多くの分野で基本となる道具です。今回は、ベクトルや行列に関する代表的な微分公式をまとめ、その考え方を説明してみます。 0. ベクトル・行列表記の基礎 ■ ベクトル ■ 行列 ■ スカラー値関数 ■…

【信号処理の基礎】Savitzky–Golayフィルタを一般形で表す

Savitzky–Golay(SG)フィルタは、時系列データをなめらかにしながら波形の形をできるだけ壊さない、非常に便利な平滑化手法です。生体信号解析、化学計測、音声処理、パワースペクトルの平滑化など、幅広い分野で利用されています。 SG フィルタの特徴は、…

【デジタルフィルタの基礎1】まずは、FIRフィルタの世界を一望してみよう

Finite Impulse Response(有限インパルス応答)、略して FIR フィルタ とは、入力に対する応答(インパルス応答)が有限の長さで確実にゼロになるデジタルフィルタのことを指します。たとえば、鐘を叩いたときに「カーン」と響く音を思い浮かべてください。…

【信号処理の基礎数学4】くし型関数が語る標本化の特性—— 連続から離散への橋渡し(その2)

前回の記事では、くし型関数(comb function)のフーリエ変換について解説しました。私たちは普段、スマホで写真を撮ったり、音声を録音したりと、「アナログな世界をデジタルとして記録する」 技術を当たり前のように使っています。 もちろん、かつてはアナ…

【信号処理の基礎数学3】くし型関数のフーリエ変換——連続から離散への橋渡し(その1)

時系列データのスペクトル解析を正しく理解するためには、 「サンプリング(標本化)とは何か」 「なぜエイリアシングが起こるのか」 「離散化されたデータのパワースペクトルの形がどう決まるのか」 といった根本的な仕組みを押さえる必要があります。 この…

【心拍変動解析の基礎0】ホルター心電計の誕生から心拍変動解析へ

ホルター心電計(Holter monitor)とは、小型の装置を身体に取り付け、24時間以上にわたり心電図を連続記録する検査機器です。日常生活の中で心臓の電気的活動を追跡できるため、健康診断などで実施される数十秒の心電図検査では捉えにくい、不整脈、虚血性…

【正規分布の基礎6】最大エントロピー原理と正規分布—無知が導く、唯一の姿

正規分布といえば、中心極限定理が教えるように、「多くの小さなゆらぎの総和」がつくり出す普遍的な形だ──これが広く知られた理解でしょう。しかし、正規分布には、それとはまったく異なる道筋から導かれる、もうひとつの美しい物語があります。 それは、 …

【正規分布の基礎5】レヴィの安定分布―足し算の向かう先は正規分布だけではない

これまでの正規分布にまつわる物語では、ド・モアブル(Abraham de Moivre, 1667–1754)からガウス(Carl Friedrich Gauss, 1777–1855)、ラプラス(Pierre-Simon Laplace, 1749–1827)、リャプノフ(Aleksandr Lyapunov, 1857–1918)へと続く歴史の中で、 …

【正規分布の基礎4】中心極限定理の物語 ― 多様な原因は、なぜ一つの姿へ収束するのか

17〜18世紀、確率論という学問はまだ小さな芽にすぎませんでした。賭博の計算から出発した確率の世界に、ド・モアブルは新しい光を当てます。彼は、コイン投げのような単純な試行を何度も繰り返したとき、結果の「回数の分布」が、滑らかな「洋鐘形」の曲線…

【正規分布の基礎3】誤差の中の秩序の探究―ガウスの誤差法則と正規分布

18世紀のヨーロッパは、天文学が大きく前進すると同時に、新たな壁に突き当たった時代でした。17世紀にケプラーが精密な観測から惑星の軌道が楕円であること、面積速度が一定であること、周期と軌道半径の関係が成り立つことを見出し、さらにニュートンが万…

【正規分布の基礎2】二項分布の極限としての正規分布の発見

18世紀初頭、ロンドンは産業革命の萌芽とともに、商業と金融の中心地として急速に発展していました。 賭博や保険、海外交易といった「リスク」をめぐる新たな社会活動が活発化し、人々がコーヒーハウスの木製テーブルを囲んで議論を交わす光景が広がっていま…

【正規分布の基礎1】正規分布はどこから来るのか

統計学や自然科学のあらゆる場面で登場する「正規分布」。平均やばらつきを扱うとき、t検定や分散分析(ANOVA)など、多くの統計手法がこの分布を前提にしています。しかし、そもそもなぜこの形だけが特別扱いされているのでしょうか。世の中には多様な分布…